FRISK JOURNAL

2018.06.21 Thu

「火星の砂」を固めて宇宙基地に!? 宇宙開発を見据えた独自技術とは/池原正樹(モルタルマジック)

 

斬新なアイデアやひらめきをきっかけに、イノベーションを巻き起こした人々にフォーカスするインタビュー企画。今回ご紹介するのは、砂や土、灰などを簡単に固めることができる独自の「粉状固形化技術」で、全国各地のみやげ物作りから、JAXAとの宇宙開発研究まで担うモルタルマジック(鳥取県鳥取市)の池原正樹。

「火星の砂」を固めて宇宙基地に!? 宇宙開発を見据えた独自技術とは/池原正樹(モルタルマジック)

鳥取県きっての観光地・鳥取砂丘に年間10万個を売り上げる大ヒット商品がある。「鳥取砂丘モアイ」だ。砂丘の砂で作られているモアイ型のフィギュアは、イースター島とは一切関係のない鳥取県で、なおかつモアイ本来の岩石製ではなく、なぜか砂でできている。2012年4月、鳥取砂丘に誕生した「砂の美術館」の開館に合わせて販売したところ、初回生産分2,000個がたちまち完売したという。

「砂の美術館」の開館時からの人気商品「ミニモアイ(砂)」。100%鳥取の砂でつくられているが、独自技術により崩れて砂が落ちることはない。サイズのバリエーションも豊富。

ユーモラスな見た目はもちろん、砂特有のザラザラとした手触りが妙にクセになる一品だ。それでいて、砂は独自の技術で凝固しており、いくらもてあそんでもカタチが崩れることがない。しかも、実際に鳥取砂丘の砂(国立公園外のもの)で作っているとあらば、「砂丘観光の思い出に」と買い求める客が後をたたないのもうなずける。

そんな大ヒット商品「鳥取砂丘モアイ」を生み出したのが、鳥取県鳥取市に本社をかまえるモルタルマジック代表の池原正樹だ。彼が発明した、砂や土、灰など粒状の物質を固める独自の「粉状固形化技術」により、いまやモアイにとどまらず「ゲゲゲの鬼太郎」などのキャラクターや、鹿児島・桜島の火山灰を固めた「西郷どん」、熊本・阿蘇山の砂を固めた「くまモン」など全国各地の土壌を使ったみやげ物を展開。

みやげ物にとどまらずファッションブランド「リトゥンアフターワーズ」「リトゥンバイ」とのコラボレーションも展開。その際、制作された砂のドレス。(右下)

さらに、この技術は宇宙航空研究開発機構JAXAによる産官学連携プロジェクト「太陽系フロンティア開拓による人類の生存圏・活動領域拡大に向けたオープンイノベーションハブ」にも採択された。

「将来的に人類が宇宙に進出するとして、その際必要になってくるのが宇宙基地を作る資材。でも地球から持っていくと1kgあたり10億円もかかってしまう。そこで『粉状固形化技術』を使って、月や火星の砂を固めれば資材を現地調達でき、大幅なコスト削減ができると考えたんです」

いわば、地域活性の町おこしグッズ作りからファッション、そして未来の宇宙開発までを担っている「粉状固形化技術」。

しかし、誰しも幼少時代に砂遊びで経験したように、砂でこしらえた造形物はいずれ崩れてしまうもの。コンクリートは砂をセメントで固めたものだが、砂本来の風合いを保ったまま凝固させる技術はこれまで存在しなかった。それを実現させてしまったのがモルタルマジックなのだが、肝心の技術の中身は(当然ながら)企業秘密。それでもなにかヒントを……。

「成分分析をしてもなにも出てきません。ということは、なにかとなにかが合わさって中和してるってことですよね(笑)」と、ニッコリ。

それにしても、この斬新な技術はどうやって生まれたのか? 池原正樹のひらめきの源泉を探っていこう。

家業を継ぐも、
瞬く間に「失われた20年」へ

 

彼の実家は、古くから鳥取市気高町で土木建築業を営む池原工業。子どもの頃から職人たちと触れ合い、幼い頃から家業を継ぐものだと自覚しながらも、学生時代はバレーボールに没頭し、実業団チームに入団した。

「入団はしましたが、僕は練習嫌いのダメ人間でレギュラーになれなかったし、ちょうど父親が体調を崩したこともあり、2年ほどで退団して実家に戻りました」

帰省してからは、昼間は現場で仕事を覚えながら、夜は学校に通い、建築士や各種施工管理技士といった家業で必要な資格を取っていった。しかし、当時は「失われた20年」が始まった頃。

「景気がいいときは50人くらい従業員がいたんですけど、徐々に公共事業が減ってきて。民間の仕事もやるんですが、そっちはそっちで過当競争で単価が下げ止まったまま。思い切ったリストラもしましたね‥‥‥」

ライバルの少ない
「モルタル造形」修業の日々

同時に、新たな事業の柱を探そうと、もがいている時期でもあったという。そうして30歳の頃に出会ったのが、「モルタル造形」という技術だった。

「コンクリートを使って、住宅の外装工事なども行っていたのですが、この技術でなにかできないかな……ってぼんやり考えていた頃に、ちょうどモルタル造形と出会ったんです。モルタル造形は、簡単に言うとコンクリートで人工の岩や木を作ったりする技術。みなさんがよくご存じなのは、テーマパークやレストランの内外装ですかね。アメリカで生まれた技術ということもあり、当時は日本では職人さんが少なく、資材もほとんどなかったので、ライバルがいない。『これだ!』って思ったんです」

思い立つやいなや、池原は地元を離れ、モルタル造形の修行へと旅立つ。ほぼ3年間、ろくに会社に帰らなかったという。

こちらの木や岩のように見えるオブジェがモルタル造形。こういったオブジェは、一軒家の玄関先に飾りなどで使用されることが多い。

こちらの木や岩のように見えるオブジェがモルタル造形。こういったオブジェは、一軒家の玄関先に飾りなどで使用されることが多い。

「当時、モルタル造形の職人さんが多く住んでいたのが、千葉県の浦安周辺。某テーマパークが日本に上陸するときに、地方から集まって現場で技術を学んだ職人さんが、今でもたくさん住んでいらっしゃるんですね。そこで彼らからモルタル造形の技術を教えてもらうために、クルマで寝泊まりしながら見習い生活を送っていたんです。でも、師匠が全然働かない人で(笑)。結果的に、ほとんど見よう見まねで技術を身に付けていったので、3年もかかってしまいました」

「モルタル造形」をきっかけに
砂の研究を開始

そうして習得したモルタル造形の技術。しかし、このモルタル造形が砂丘のモアイとどうつながるのか? これがつながるのだ。

「資材のセメントが輸入品しかなくて、当時は値段が一般的なセメントの約10倍したんです。現在でも約4倍しますね。そんな状況だったから、せっかく仕事として回ってきてもあまり利益が出ないので、いっそのこと自分で作れないかな? と砂の研究を始めたんです。

大学に相談しながら、粒子の分布だとか、成分分析だとか、ブレンド具合だとか。それで……できちゃったんですよ。そうしたら、鳥取市のコンベンション協会の方から『池原くん、君は砂に詳しいらしいね。鳥取砂丘の砂でお土産作れば売れるよね』って言われてビビッときたんです」

そこからすぐに砂を固形化するための技術研究を開始。セメントの研究成果から理屈ではわかっていたものの、量産化するための目処がなかなか立たなかったという。そうこうするうちに、「砂の美術館」オープン1週間前を迎える。

「最初は行政の人から『地元に伝わる因幡の白兎伝説にあやかって、砂で白ウサギを作れば?』なんて言われたんですけど、それじゃつまんないなと。『モアイはどうかな?』と提案したところ、『なんでモアイなんだよ』って猛反対されたんですけど、実は裏でこっそり作ってまして(笑)。『もうなんでもいいから出して』って泣きつかれて、美術館のオープンに合わせてモアイを出したら、これが当たった」

2,000個が即完売。「これはまずい‥‥‥」と夜な夜な制作したというが、量産化は間に合っていない。

 

「どんどん売れちゃうので夜な夜なずっとひとりで作っていました。早く乾燥させるとヒビが入っちゃうから、ゆっくり凝固させないといけないんですけど、そうすると今度は型がたくさん必要になる。もともとは素人なので、試行錯誤の繰り返し。そんなこんなで、あるとき偶然に早く固められる凝固剤ができちゃった。『あ、固まった』って(笑)。ただ、自分はアンポンタンなんで管理ができてなくて、なにを混ぜたから固まったのかわからなかったんです。そこからが大変でした(笑)」

以降、鳥取県にとどまらず、全国各地のみやげ物開発に関わるようになる。なにせ、その土地の土や砂、灰を使えばいいのだ。商品展開の可能性は無限にある。前述したようにそう、宇宙にまで。

独自技術が認められ、
JAXAとの共同研究が実現

そもそもモアイを選んだことや、宇宙に興味があること。それは池原がSF好きだったことも影響しているという。

「UFOとか大好きですしね。実際、JAXAの施設に自由に出入りできるのは楽しかったですね。いちおう、現在も研究は継続中なんですが、JAXA通いはひと区切りつきました。大変なこともありましたけど、楽ししかったからいいかな。それは本業でも同じです。楽しくなかったらやりたくない」

アメリカの技術であるモルタル造形にピンときたこと、即座に浦安に飛び込んだこと、反対されながらもフィギュアのモチーフをモアイにすることで押し通し、成功したこと……。こうした池原のひらめきの源泉は、いったいどこにあるのだろう?

「うーん、常に『なぜ?』を繰り返していること……かもしれませんね。クルマで走っているときも看板のデザインを見て『なぜ、このフォントにしたのか? 自分ならどうするだろう?』とか、買い物しているときも『なぜ、自分はこの商品を手に取ってしまったのか? なにに惹かれたんだろう?』とか、いちいち考えるのが好きなんです。あと、ネタ帳があって思いついたアイデアは常に書き留めていますね。枕元にも置いておくし、なんならお酒飲んでるときも必ずメモします。人は忘れちゃいますから」

常に「なぜ」を考え続ける池原だが、仕事での人との出会いがよい刺激になるのだという。

「お仕事で知り合った全国各地の仲間とお酒を飲むことが楽しい。というか、僕は『一緒に飲みに行きたいな』って思う人としか仕事してないんですよ。だって、楽しいお酒を飲みたいじゃないですか。そうやって日本中47都道府県に会いに行きたい仕事仲間をつくるのが、今のところの夢ですね」

モルタル造形をきっかけに砂を固める独自技術を生み出し、JAXAとの共同開発まで実現。なにごとも楽しみながら試行錯誤を繰り返し、その原因と結果を探求し続ける。彼は常に楽しんでいるのだ。取材中、辛いことや大変なこともあったはずの経歴を笑いながら飄々と語る池原を見ていると、そこにこそ、彼のアイデアの源泉があるように思えた。

モルタルマジック
池原正樹
いけはら・まさき/1970年8月11日鳥取県生まれ。大阪体育大学卒業。実業団バレー部に所属した後、家業の土木建築業を継ぐ。まだ日本では技能者が少なかったモルタル造形を事業化し、モルタルマジックを設立。2008年、砂や土、灰などの質感を保ったまま固める粉状固形化技術を発明。全国各地のみやげ物をはじめ、宇宙開発研究にも役立つと期待されている。

text:FRISK JOURNAL
photo:中田昌孝(STUH)